時間と絶望と偶然が変える物

唐突に放たれた「付き合う?」の言葉に返す言葉が見当たらなかった。なんて、なんのラブコメのキャッチコピーだろうか?

今日はみゆさんとの電話越しで少し前に余りにネガティブ思考が働き者になるので思考停止薬代わりに読んだ本の話をしていた。
もう記憶に残らない程前、私が頼んだ本と間違えて母さんが買ってきた本があった。当時の私は目的の本ではなかったから読まなかったらしいが、片付けをしていて出てきたそれを、一度も読まないのは損だと読む事にしたのだ。
主人公の絶望から始まるその恋愛漫画は、少々鬱々としていて、関係や思惑がややこしく絡まって、結局初恋が破局。直ぐに幼馴染と付き合っても初恋を忘れられなくて破局。幼馴染を傷つけた罪悪感を残して数年越しに初恋の相手と結ばれるという話だった。
なんとなく、なんとなくその話をしていると唐突にみゆさんから有り得ない発言が出てきた。
「付き合う?」


暫くの長い沈黙の後、え?という間抜けな声が出た。
長く語る必要も無いだろう。私達は互いに友人以上で見れない。友達、だと私は思っている。確かに今の彼女といても今の関係、今の状況が変わる訳では無いのは分かっている。
みゆさんが明らかに焦っているのは分かっていた。私に対しての恋情なんかじゃない。結局好きな人を忘れる為の穴埋めでしかないのだ。でも、穴埋めをすることが悪い事だなんて思わない。誰だって心の傷を埋める為に努力する。
でも、私達は私達を知り過ぎている気がした。今の私達ではなく昔の私達を互いに知る為に、忘れられないのではないかと。あの時、恋人として過ごした私達を一度過去にした私達は今の私達を愛せるのか?
忘れる忘れない云々以前に、忘れさせる方法が見当たらなかった。みゆさんに依存しているという点ではきっとそうだ。でも、何というのか恋愛的依存では無い事は何となく分かる。
ダラダラとこうやっていても意味が無いのも分かっている。どうせそうやって足踏みしてるだけじゃ遠くの景色を見て羨ましがる事しか出来ないのだから。
愛されたい、甘やかされたい、認められたい。
みゆさんのその要求を埋められる程、私は愛に飢えていなかった。正直に言うと、誰と付き合わなくてもみゆさんと友達で入れて、渚くんがいればいい、と思ってる。面倒臭くなった、彼女へのケアとか、気遣いとか、楽しいと思えない。世話を焼くのが好きだったのに…今となれば面倒臭いし、いざそれをしろと言われてもどうやっていたのか思い出せない。
…取り敢えず今の彼女とは別れた。こっちの方がメインなのだが、長々と前の話を語ってしまった。みゆさんに言われて、漸くその事に正面から向き合う事になったのだが結論として出たのは「何も無い」だった。思いもなければ、変化もない、なにも、無かった。形だけの約束に縛られる振りをしているだけだと自覚して、別れる決心がついた。彼女も何も言っていなかった。
ならみゆさんと付き合うのかという話は正直よく分からない。別に付き合ってもいい。でも互いに好きなって貰えるように努力しなければならないと思う。それで居て相手に愛されて自分を認めてあげられたなら、私はそれに意味があると思う。
……なんだかんだ、みゆさんが絡むと昔の自分に戻ってる気がする。少しだけ自分が好きだったあの頃に。そう思うと、みゆさんといるのもいいのかもしれないな。今はまだその覚悟がないけれど、有耶無耶にはしない。ただ、少し考える時間も欲しかったりする。それから、みゆさんをもう少し知る時間を、

もうこんな時間だった、やる事が残っているので取り敢えずおやすみなさい