赤い鳥は飛び立った

どうにも今日は頭痛が止まらない。

久しぶりに学校へ行ったからなのか、それとも動画の見すぎか。何にしろ今日は体調があまり良くない。

それはそうと、少しだけ昔話をしようと思う。
どうせ誰が見てるわけでもないのだけれど、私は自分のことは忘れっぽいのでここに。

とある所に一匹のペンギンがいた。ペンギンは出来損ないだった。指示されたとおりにしか泳げない出来損ないだ。ペンギンは指示を仰がなければ感情で動けない自分を観てもらうために自分をプログラミングした。何が好き、何が嫌い。きっと周りは急に自己を主張し出したペンギンに色々な感情を見せた。関心を抱く者、興味を抱く者、無関心な者、無論、よく思わない者もいた。ペンギンは痛い事も悲しい事も嫌いだったし、馬鹿にされるのは凄く嫌だったけど笑って見せた。何故ならそれがペンギンがペンギンに施したプログラミングだからだ。
しかし、ペンギンはとある日をきっかけに無条件に愛してくれる人に出会った。それは恋だ。でも、結局それは終わってしまった。ペンギンは考えた、どうしたら愛してもらえるだろう?
きっと、ペンギンにペンギンという性格があればよかったのだがそれを持てるほどペンギンは愛に満たされていなかった。愛に満たされないペンギンは自分をも放り出して愛を求めた。
至った結論は、愛されたいのならその人の好きな性格にプログラミングし直せばいい、というものだった。
次に出会ったのは怪我をした子猫だった。子猫はペンギンに良く似ていた。辛うじて違ったのはペンギンは壊れていた、という事だろう。
子猫を幼き自分に重ねたペンギンは子猫に甘い言葉を囁いた。ゆっくり時間を掛けて、自分が喉から手が出るほど欲しかった言葉を幾つも、幾つも。そうやって自分を肯定していくように。
子猫は徐々に自分を肯定してくれるペンギンに依存していった。子猫とペンギンの思いが重なるまで、幾つかの障害はあれど時間はかからなかった。
ペンギンもいつの間にか自分に擦り寄り、一心に愛してくれる子猫を愛おしく思うようになったのだ。
そしてペンギンは子猫が自分に依存し過ぎて堕落していることに気がついた。そんなペンギンは子猫をもプログラミングし直そうとしたのだ。
結論的にいえばプログラミングの破壊、再構築は成功した。
子猫に自分という餌をチラつかせながらゆっくり間違ったことやひねくれ、昔の蟠りや、諦めやトラウマ、不安等を壊して行った。勿論全てをどうにか出来るなんてペンギンは思っていなかった。
少し言葉を添えて、力を加えて、子猫が自力で立てるように仕向けた。
しかし、ペンギンは誤算をした。その誤算とは他でもないその自立の本当の意味だ。
自力で立てなかった子猫は自尊心や自意識を取り戻すにつれ徐々にペンギンを求めなくなり、更には他の人間を求めたのだ。

そして、子猫はペンギンに自分への愛の量を試すようになった。ペンギンは最初は困っていたが徐々にそれが嫌になった。
何かがあっても謝るのも自分。求めるのも自分。優しくするのも自分。そんなのは違う、次第にそう思うようになっていた。
子猫と同じく、ペンギンも愛に満たされかけていたのだ。それが、子猫の自立でありペンギンの本当の自我の目覚めだった。
子猫とペンギンは互いに愛を求め合うことをやめ、別々の道へ進むことで決別した。…はずだった。子猫と別れて半年、ペンギンはやはり子猫を忘れられないでいた。子猫ほど自分を近くで見ていた人はいなかったし、自分も子猫ほど長く深く付き合った人は友人にもいなかった。それこそ、毎度の喧嘩は殺し合いのようにも見える程に激しく、強く、深い愛を含んでいたのだ。
風の噂で子猫が遠くへ行ってしまうと聞いたペンギンはいてもたってもいられなくなり、結局子猫へ謝罪した。無論謝罪をしたって何も変わらないがこのまま終わらせたくなかったのだ。
子猫はペンギンと共にいる気は無かった。それは、遠くの地へ行くことが変えられないからなのか。それとも、もう気がないからなのか。言わずとも分かっていた。
ペンギンは迷っていた、まだわずかに残ったその思いを伝えるべきか、それとも言葉にせず思いがゆっくり消えていくのを見守るか。
そんな時に出会ったのは小さな子犬だった。
半ばやけだったのもあった、ペンギンは自分の思いを誰かに打ち明けるのが怖かったのだ。今までの事も今悩んでいる事も、作り上げた自分の姿でそんな事をしてしまえば離れられてしまうのではないか、と。別に子犬でなくても良かったのだろう。ペンギンを知らない、誰かであれば誰だって。そんなペンギンの心の内は梅雨知らず。
子犬はペンギンにアドバイスをくれた。
会って間もないペンギンの悩みに親身になって本気で考えてくれたのが嬉しくてペンギンはポロポロ泣いた。

結局、ペンギンは子犬に背を押されて子猫に最後の別れと愛の言葉を告げた。子猫は笑いながら強く抱き締め泣いたが、結局愛の言葉を返すことは無かった。

その数カ月後、ペンギンの元へ最初にペンギンを愛してくれたあの人がもうこの世に存在していないことをペンギンは知る。
しかしペンギンは泣かなかった、悲しまなかった。強いて言うならそんな自分に吃驚した。
こんなにも自分は、感受性の弱く冷徹だったのかと。

子猫と別れて一年が経とうとしている。
ペンギンはあれから自我を伸ばし徐々にペンギンという自己を完成させかけている。すぐ近くに子犬と、その仲間達がいる今、十分に満ち足りた感情を抱きペンギンは考える「ロボットだったあの頃の自分は幸せだったか、」と。
ペンギンは幸せだったのだろうか?
ペンギンはペンギンという自我を持つべきだったのだろうか?
ペンギンは何故泣かなかったのだろうか?

結局、全てはわからなかった。
自分はどうなりたいのかも分からなかった。でも、あの時の自分は人に甘い言葉を囁いて人が幸せに満ち足りた顔をするのが大好きで、そんな自分も大好きで、それなのに心が乾いて壊れてしまった。
愛を求めてしまった、それだけだ。
なら、心が潤った今の自分を自分は愛せているだろうか?

力が欲しい。もっと、強くなりたい。